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首都圏研修L班体験記 「人がつなげる化学の世界」

2024年12月3日、埼玉県和光市にある理化学研究所和光事業所は天気に恵まれ、雲一つない青い空と黄色に色づいたイチョウが素晴らしいコントラストを示していた。普段、色素の化学に関する研究を行っている筆者は「青と黄色はお互い補色の関係にあるからコントラストが高いのか」とついつい職業病的な見方をしてしまう。30年前の宇高時代の筆者はもっと純粋に空とイチョウの美しさを感じることができていたように思う。

研修当日の理化学研究所和光事業所のイチョウ並木

今年の首都圏研修 Lコースは、午前中に理化学研究所和光事業所を見学し、午後は大林組を見学した。このコースを選んだ宇高生は20人で、詰襟の黒い学生服を着た集団を見てとても懐かしい気持ちになった。理化学研究所の見学は、始めに広報室による研究所の概要説明があり、新一万円札の顔となっている渋沢栄一が研究所の設立に関わっていることなどの話があった。続いて仁科加速器科学研究センターの展示施設「サイクロペディア」を見学した。展示施設には原子核の種類や性質を視覚的にイメージできる3次元核図表があり、宇高生はその3次元模型の前で職員の説明を真剣に聞いていた。

研究所概要の説明、展示施設の見学、講話の様子

その後、筆者が30分ほど講話をした。講話を始めるにあたって、筆者が宇高の卒業生であることが広報室から紹介されると「おぉー」という声が上がった。筆者が卒業生であることはこのときまで知らされていなかったのかもしれず、よいサプライズになったようだ。「人がつなげる化学の世界」というタイトルで、いかに自分がいろいろな人との貴重な出会いがあって今の化学の研究をすることができているのか、について話をした。話を聞く2年生が進路や将来を考える上で参考になるようにと、学生時代から理化学研究所に勤務するまでの経緯を話した。理科実験で使う濾紙のメーカーに父が勤めていて化学の進路を勧めてくれたこと、中学・高校の担任の先生は全員理科の先生であり影響を受けたこと、大学生時代に所属した研究室の先生と共同研究者とのつながりでその後の留学や就職先が決まったこと、などを紹介した。

筆者の研究人生の中で宇高の卒業生と深いつながりがあり、講話の中で紹介させていただいた。現在所属している環境資源科学研究センターの初代センター長を務められた篠崎一雄先生(昭和43年卒)は大先輩であり、ソフトテニス部の1年後輩の杉本健士さん(平成8年卒)は現在京都府立大学で教授として活躍している。以前所属していた研究室のメンバーに平野圭一さん(平成12年卒)、古山渓行さん(平成13年卒)がいて、宇高の先輩・後輩の名前が入った研究論文をこれまでに複数発表している。現在2人はそれぞれ教授、准教授として金沢大学で活躍している。大学4年生のときの筆者が教育実習で宇高に行ったときに、2人はそれぞれ高校2年生と1年生であり、当時同じ滝の原の地にいたと思うと、実に不思議な縁を感じる。

現在の仕事の内容についても数枚のスライドを使って紹介した。理化学研究所では色素の研究の歴史があり、日本最初の女性化学者である黒田チカ先生が紫根や紅花の天然色素の分子構造解析の研究をされていたこと、縁あって筆者がキクラゲの天然色素の分子構造解析の研究に最近関わることができたこと、を話した。

講話では理化学研究所の研修生・実習生の宣伝もさせていただいた。高校生からすると理化学研究所は遠い存在かもしれないが、大学生や大学院生でも研修生・実習生となることで理化学研究所で研究をすることが可能であることを紹介した。Lコースを選んだ宇高生の中から数年後理化学研究所で研究する人が現れ、将来一緒に研究して新たな宇高卒業生とのつながりができることを夢見ている。

講話で使用したスライドの抜粋

講話の後はA班とB班の2班に分かれて研究室見学となった。A班は筆者が所属している環境資源科学研究センター分子構造解析ユニットを見学し、B班は同センターの分子リガンド標的研究チームを見学した。どちらの見学も始めに職員がスライドを使って研究紹介を行い、その後A班では最新の研究に使われる分析装置を見学し、B班では職員による実験操作を見学して、理化学研究所の見学プログラムは終了となった。

研究室見学の様子

筆者が宇高生の前で講話をすることは今回が初めてで、1ヶ月ほど前からどのような話をすればよいかあれこれ考えていた。その頃宇都宮の病院に父が入院しており、筆者は頻繁に宇都宮に通っていた。宇都宮と自宅を行き来する道中、宇都宮に住んでいたころを思い出し、化学の道に導いてくれた父や先生方の話をしようと決めた。その父は首都圏研修の2日前に他界した。講話では父への感謝の気持ちも込めて話をさせていただき、筆者にとって生涯忘れない日となった。

村中厚哉(平成7年卒)

黒﨑 弘正 東京支部副支部長(H1卒、中央)との新たなつながり(2024年3月)
左:著者     右:平野 圭一さん(H12卒)